長年母親の面倒を看たところ、母親が自宅の土地を自分に相続する旨の内容の遺言書を書いてくれた、その後、母親は死亡し遺言書どおりに自宅の権利を自分に移そうとしたところ、遺言書の筆跡が母親のものでないことを理由に兄の弁護士から遺言書の無効を主張された・・・・

または、父は長男である自分のために先祖代々の土地を自分に相続させる旨の遺言書を書いてくれたが、父の死後、父の認知症を理由に弟から遺言書の無効を主張された・・・

終活ブームの中で、遺言書の作成件数も増えてくると思いますが、それに伴って、上記のような遺言書の効力が争われる事案も増えてくると思います。

それでは、他の相続人から遺言書の無効を主張され、遺言無効確認訴訟の提起や調停の申し立てをされた場合、遺言書の無効を主張された方はどのような対応をとればよいのでしょうか。

以下では、他の相続人から遺言書の無効を主張され、遺言無効の訴えを提起された場合における対処法について解説をしていきます。

まずは遺言能力を争っているのか、自筆性を争っているのかを確認する

まず、他の相続人が遺言書の無効を主張している場合、必ず遺言の無効原因が存在します。

よくある無効の主張原因としては、遺言書の筆跡が亡くなった人のものとは異なるという遺言書の自筆性を否定するものや、遺言書作成時において遺言者に遺言能力が欠けていたというものがあげられます。

そして、自筆性を争われているのか遺言能力を争われているかによって、どのような点を検討し、どのような反論をしなければならないかが異なります。したがって、まずは他の相続人がどのような理由で遺言書の無効を主張しているのかを確認しましょう。

以下では、主張している理由に応じてどのような対応をすべきかを検討していきます。

他の相続人が遺言者の遺言能力を争っている場合

遺言能力に関してどのような証拠が提出されているかを確認する。

遺言者の認知症等により他の相続人が遺言能力が無いことを理由に遺言書の効力を争っている場合、まずは、相手方が提出している証拠としてどのようなものが提出されているかを確認しましょう。

以前の記事でも紹介しましたが、出される証拠としては、介護認定調査票、主治医意見書、カルテ、診断書、介護施設の記録等様々なものがありますが、例えば診断書の一つであっても、精神科等の専門医なのかそれ以外なのか、また、作成日が遺言書の作成日に近い時期なのか事後的に作成されたものか等によって、その証拠としての価値は異なってきます。

これらの証拠一つ一つの証拠価値を検討した上で、本当に遺言能力が無かったかを検討しなければいけません。

他の相続人が認知症等の症状を踏まえた主張をしているか確認する。

遺言能力を争ってくる場合は、認知症等の症状や行動があることがほとんどです。もっとも、認知症であること=遺言能力が無いというわけではなく、遺言書作成時における認知症の程度が重要になります。

おそらく相手方は、長谷川式の点数やMMSEの点数等を理由に認知症の重さに対する主張もしているはずなので、どのような主張をしているか確認しましょう。

なお、認知症の程度を把握するためには、例えば認知症の周辺症状と中核症状との違いやアルツハイマー型認知症・脳血管型認知症の違い等、認知症に対する知識も必要になってきます。

相手方がこれらの知識を踏まえて主張をしているかどうかということも確認すべきポイントであり、これらの知識を踏まえた主張をしている場合は、こちら側も特に詳しい弁護士に依頼した方がよいでしょう。

遺言書の内容がシンプルな内容であるか複雑な内容かをチェックする

遺言能力の有無はその時の認知症の程度のみで決まるわけではなく、遺言書の内容との関係で相対的に決まると言えます。

例えば、遺言書の内容が「全ての遺産を長男に相続させる。」というようなシンプルな内容であれば、認知症の程度がある程度進んでいたとしても遺言能力があると判断される可能性もありますし、他方で、「不動産Aは長男、有価証券のうち株式は・・・」というような複雑な内容の場合は、遺言能力がないと判断されやすくなります。

したがって、遺言書の内容も欠かさずにチェックする必要があります。

他の相続人が遺言者の自筆性を争っている場合

他の相続人が遺言者の自筆性を争っている場合もどのような証拠や主張に基づいて自筆性を争っているかを確認します。

しばしば出てくる証拠として、筆跡鑑定書がありますが、以前の記事でも紹介したとおり、筆跡というのはその時の体調や筆記用具等によっても容易に変わりますので、筆跡鑑定書は必ずしも証拠価値が大きくありません。

とはいえ筆跡が類似すればそれだけ自筆性を肯定する事情になりますので、まずは、遺言書作成時と近接した時期に作成した遺言者の作成書類がないか探しましょう。

なお、遺言者の自筆性それよりも、遺言書を作成するに至った経緯や動機等が重要になり、これは、遺言能力の時にも同じく妥当するものですので、遺言書を作成するに至ったストーリーを思い返しましょう。

終わりに

以上、他の相続人から遺言書の無効を理由に訴えられた場合の対処法について解説をしました。

記事を見ればわかる通り、遺言書の無効の主張に対応するためにはポイントを押さえて準備を行う必要があります。

相手方の主張がポイントを押さえているものであるのか、それとも無理筋の主張なのかを判断した上で、問題解決の着地点を定める必要がありますが、そのためには遺言無効等のポイントを押さえた弁護士に依頼するのが一番の近道といえます。

東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では、遺言無効確認訴訟の経験・知識を踏まえたアドバイスが可能です。

ご相談によって問題の解決も可能になりますので、一人で悩まずお気軽にお問い合わせください。

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