養子縁組をすることによって法律上の親子関係が発生し,これによって養親が死亡した時には,養子は養親を相続できることになります。

節税目的等,相続にあたって養子縁組が絡むことはよくありますので,相続紛争を解決するためには,養子縁組に関する最新判例を抑えることが必要になります。

今回の記事では,養子縁組無効確認請求訴訟に関する最新判例である平成31年3月5日最高裁判決を紹介した上で,養子縁組の無効をどのような方法で主張するのが良いかについて解説をしたいと思います。

養子縁組無効確認請求訴訟の判決(平成31年3月5日判決)の事案の説明

今回の養子縁組無効確認請求訴訟において問題となった事案は以下の通りです。

  • 養親Aは,養子Bの叔母にあたる。
  • 養親Aは,自筆証書遺言を作成し,養親Aの財産を養子Bの姉の夫Yに包括遺贈をした。
  • 養子Bは,財産を全く取得できなかったことから,Yに対し遺留分減殺請求を行った。
  • Yは,養子Bに対し養子縁組無効確認請求訴訟を提起した。

養子縁組無効確認請求の判決の判示内容

上記事例について最高裁は,

養子縁組無効確認の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが,当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることの無い者は上記訴えにつき法律上の利益を有しないと解される(最高裁昭和59年(オ)第236号同63年3月1日第三小法廷判決・民集42巻3号157頁参照)。

そして,遺贈は,遺言によって受遺者に財産権を与える遺言書の意思表示であるから,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は,養子から遺留分減殺請求を受けたとしても,当該養子縁組が無効であることにより自己の財産上の権利義務に影響を受けるにすぎない。したがって,養子縁組の無効の訴えを提起する者は,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとは言えないと解するのが相当である。

と判示したうえで,Yは養親Aから包括遺贈を受けた者に過ぎず,養子縁組の無効により自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることはないとし,養子縁組無効確認請求を却下した第1審判決の結論を維持しました。

判決の解説のための遺留分減殺請求と養子縁組の前提知識

上記事例において最高裁は上記の通り判示しましたが,遺留分減殺請求を受けた者は,なぜ養子縁組の無効確認訴訟を提起したのでしょうか。

養子縁組を行うことにより法律上の親子関係が生じます。そして,遺留分減殺請求権は相続人の権利であることから,逆を言えば,相続人でなければ遺留分減殺請求権を行使することができなくなります。

養子縁組が無効になれば,第1順位の相続人である「子」が存在しなくなるため,養子による遺留分減殺請求は認められないことになります。

そのため,遺留分減殺請求がなされた後に,遺留分減殺請求を受けた者が養子縁組無効確認請求訴訟を提起したものと思われます。

但し,養子縁組無効確認請求訴訟を提起するためには,原則として養子縁組の当事者であることが必要であり,例外的に養子縁組の無効を主張するためには,上記判例が引用した昭和63年3月1日判決の通り,養子縁組の無効を主張するについて法律上の利害関係を有することが必要になります。

本件では,遺留分減殺請求を受けた者は養子縁組の当事者ではなかったため,上記法律上の利害関係を有するかが問題となりました。

遺留分減殺請求を受けた側が養子縁組の無効を主張するためにはどのようにしたらよいか

上記最高裁判決を前提にすると,具体的な親族関係によっては,遺留分減殺請求を受けた者が養子縁組無効確認請求訴訟を提起して養子縁組の効力を争うことができなくなります。

それでは,遺留分減殺請求を受けた者は養子縁組の無効を争えないのでしょうか。

これに対する回答は,遺留分減殺請求を受けた者は養子縁組の効力を争うことができるというものになります。

養子縁組無効確認請求訴訟を提起することができないとしても,遺留分減殺請求訴訟の中で,遺留分減殺請求を行った者が無効な養子縁組を行ったため遺留分減殺請求権者の前提となる相続人では無い旨主張することが可能です。

要は,争うステージを変える必要があるのみであって,養子縁組の無効を主張することができないというわけではないのです。

終わりに

以上,遺留分減殺請求を受けた側が養子縁組の無効を主張するためにはどのようにしたらよいかについて,最新の最高裁判例をもとに解説を行いました。

遺留分に関する紛争や養子縁組に関する紛争は,関連する判例や裁判所の運用を理解することによりより良い結果に近づくことになります。

東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,遺産分割,遺留分,養子縁組・遺言書無効確認等の相続問題に注力しております。

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