被相続人の遺産の中に、第三者に賃貸中の不動産が存在する場合があります。

被相続人が亡くなってからすぐに遺産分割が完了した場合はあまり問題とならないのですが、遺産分割が紛糾した等の理由で遺産分割まで時間がかかった場合、相続開始後、遺産分割までの間の賃料額が大きくなることがあります。

その場合、相続開始後、遺産分割が成立するまでの間の賃料はどの相続人が取得するのでしょうか。

 

問題の所在と遺産分割の遡及効

遺産分割の効力に関し民法909条は以下のように規定しています。

民法909条

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

要は、遺産分割をした場合、相続人は被相続人の死亡時にさかのぼって遺産を取得していたことになるという規定です。

この民法909条の規定を形式的に読めば、以下のように考えることもできます。

すなわち、遺産分割をすると、相続開始時(被相続人の死亡時)にその効力がさかのぼるのだから、賃料を発生させている収益不動産を相続人の一人が取得すれば相続開始時からその相続人が不動産を取得していたことになる、したがって、相続開始時から遺産分割までの賃料についても不動産を取得した相続人が全部取得すべきである・・・・

しかし、判例は以下述べるようにこのような考え方をとりませんでした。

相続開始後の賃料は法定相続分に応じて各相続人が取得する。

平成17年9月8日の最高裁判決は、相続開始後遺産分割までの賃料は遺産分割を経ること無く法定相続分に応じて各相続人に分割されると判示しています。

判例のこの考えに従えば、自動的に賃料は各相続人に分割されるのだから、相続人の一人が遺産分割の結果収益不動産を取得したとしても、相続開始後遺産分割までの賃料の全部を取得することができないことになります。

逆を言えば、賃料が相続開始時の時点で法定相続分に応じて分割される以上、相続人の一人が家賃を独り占めしている場合は、他の相続人はその相続人に対して法定相続分相当額の賃料について返還請求をすることができます。

 

相続事件に詳しい弁護士に相談を

この記事は、判例が既にあり結論が出ているにもかかわらず、遺産分割と賃料の関係については考えが分かれているという誤ったことが書かれている専門家のブログの記事を見たことがきっかけになって作成しました。

しかし、こうした誤りは珍しくありません。ブログの他にも、以前相手方となった弁護士がこの判例を知らず、遺産分割の遡及効を根拠に、収益不動産を取得した相続人が賃料を全部取得すべきであると主張し、なかなか調停が進まなかったこともありました。

法律的に通らない主張を調停や訴訟で続けると、調停委員や裁判官の心証もあまりよくないので、結局この事案でも相手方の主張はとおらず、相手方に有利な結論にはなりませんでした。

調停や裁判ではこちらにとって通りやすい主張を選んで交渉をしないと良い結果にはなりづらいです。

したがって、遺産分割調停や使い込みの裁判など相続事件は相続事件に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

相続開始後の賃料を含めた遺産分割についてお悩みの方は弁護士による無料相談を実施しておりますので、下記お電話番号にて、またはホームページもしくは本ブログのメール相談フォームからお気軽にお問い合わせください。

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