相続法が,平成30年7月,実に40年ぶりに大幅に改正されるに至りました。

相続法とは,民法典のうち,被相続人の権利義務がどのように受け継がれるかなど相続の基本的ルールを規定した部分をいいます。

今後,数回に分けて,改正により相続に関するどのような点がどのように変わったのかについて,大まかな解説を試みたいと思いますが,今回は自筆証書遺言に関する定めについて解説を行いたいと思います。

自筆証書遺言の自筆性の緩和

自筆遺言証書とは,「遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押」して作成された遺言書の形式を言います(民法968条第1項)。

遺言書は,被相続人の財産等に対する最終的な意思決定であるとともに,相続人が,被相続人の権利義務を承継する際の基準となるものです。

そのため,その重要性に鑑み,法律の定める方式に則ってなされたものでなければ,効力を生じません。

現行民法(以下「旧法」といいます。)の下では,遺言書の全文,日付及び氏名について,遺言者が自書する必要がありました。しかし,遺言者が複数の資産を有する場合など,自筆で遺産の中身全てについて詳細に記載することは,煩雑でした。

そこで,改正民法(以下「新法」といいます。)においては,遺言書に相続財産の目録を添付する場合には,その目録には自書することを要しないとされました。

この改正によって,新法の下では,例えば,財産目録をパソコンで作成することや,預金通帳のコピーを遺言書に添付することが認められるようになり,遺言書作成の負担が軽減されたといえます。

但し,財産目録をパソコンで作成できるようになったとしても,当該財産目録の各ページに署名・押印が必要になりますので,この点を忘れないように注意をすることが必要です。

なお,上記改正の施行日は,平成31年1月13日とされており,既に施行日が経過しています。

法務局における遺言書の保管等に関する法律(遺言書保管法)

自筆証書遺言は,遺言者が自筆で作成することから,通常は,遺言者本人が自宅等で保管するものと想定されます。

ところが,遺言書が機能する場面ではすでに被相続人は亡くなっているところ,相続人が必ずしも遺言書の存在を知っているとは限らず,せっかく生前に示された相続人の意思が,適正に反映されないといった場面が十分ありえます。

また,遺言書が発見されない場合という事態のみならず,自己に不利な内容の遺言書を発見した者が当該遺言書を破棄してしまうということも否定できません。

そこで,上記のような事態を可及的に防ぐために,新たに法務局における遺言書の保管等に関する法律(以下「遺言書保管法」といいます。)が成立しました。同法によれば,自筆証書遺言について,遺言者が法務局に出頭し遺言書の保管を申請することができます。

かかる制度が一般的に運用されるようになれば,相続人は,被相続人が死亡した場合には,まずは遺言書が保管されていないかを法務局に照会することにより,遺言書の存否及びその内容について知ることができるようになります。

いわゆる終活の一環として,遺言書という制度に対し関心を持ち,生前より相続人同士の間の無用なトラブルを事前に防ぐために備えておくことも必要な時代になったといえるのかもしれません。

ただ,遺言書保管がなされたとしても遺言書作成の時点における遺言者の遺言能力が担保されるわけではありません。

したがって,遺言能力が無いことを理由に遺言書の効力が争われるケースは依然として存在するのではないでしょうか。

なお,同法の施行は,平成32年7月10日になります。

特定財産承継遺言と登記等

先ほどまでは,遺言書の形式面に着目したお話をしてまいりましたが,本項では,遺言書の内容面に着目した改正点を説明します。

世の中に存在する遺言書の文言として,「〇〇不動産を長男に相続させる。」という書きぶりのものが多くみられます。このような特定の財産を承継させる内容の遺言は,旧法下では,いわゆる「相続させる」旨の遺言と言われてきましたが,新法では「特定財産承継遺言」として定義されるに至りました。

先例においては,被相続人と相続債権者との優劣を決するにあたり,相続させる旨の遺言により権利取得した相続人は,かかる権利移転について登記等を備えていなくても,相続債権者に権利の主張をすることができると解されていました。

かかる解釈は,遺言者の生前の意思を重く見たものではありますが,これでは遺言書の内容を知らない相続債権者の地位が不安定なものとなります。

そこで,新法では,相続させる旨の遺言により権利取得した相続人は,自己の法定相続分を超える権利取得については,登記等を備えることなくして,相続債権者を含む第三者に対抗することができないこととされました。遺言者の意思の実現と取引の安全をバランシングした改正であると考えられます。

上記のように,新法下では,相続発生後速やかに相続財産の移転登記等の適切な処理を行う必要が生じたと言えます。他方で,相続債権者にとりましても,旧法下であれば遺言書の存在を盾に泣き寝入りをしていたケースであっても,保全処分を速やかに進めることができれば,債権回収の目途が立つかもしれません。

弊所では,提携司法書士との協力のもと,そのような問題にも速やかに対応する体制が整っております。是非お気軽にご相談ください。

遺言執行者の権限の明確化

遺言執行者とは,遺言書内容を実現する立場の者を言います。

遺言執行者については,こちらのページでも解説をしているので参考になさってください。

遺言の内容が適切に実現されなければ,被相続人の意思に反するだけでなく,遺言制度そのものに対する信頼も失墜してしまいかねません。そこで,民法は,遺言執行者という制度を置き,遺言の内容を適切に実現させるための権限をこれに与えていました。

しかし,旧法の規定では,包括的な規定が存在するだけで,遺言執行者が,どのような場面で何をなし得るのかが明らかでない場面もありました。そこで,新法では,従前の判例をも踏まえ,遺言執行者に与えられた権限及び責務の内容を具体化する改正が施されたのです。

終わりに

以上相続法の改正について解説を致しました。

相続案件を行う上では改正法を早期にフォローすることが必要と言えます。

今回解説をした改正相続法における遺言書の件に限らず,相続に関するお悩みの方は,相続問題に強い東京都中野区の吉口総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

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