遺言書を作成する場合、特定の財産を特定の相続人または相続人以外の特定の第三者に譲り渡すことを想定して遺言書を作成することが多いと思います。

特定の財産を譲り渡す手段としては、「遺贈」「相続させる」遺言の二つの方法があります。

遺贈とは、遺言者単独の意思で特定の遺産を譲り渡すことを言い、相続させる遺言は、特定の遺産の遺産分割方法を指定することを言います。

それでは、それぞれの定義がわかったとして、その二つではどのような違いがあり、また、それぞれどのようなメリットがあるでしょうか。

以下では、遺贈と相続させる遺言の違い及びメリットについて解説したいと思います。

 

相続させる遺言は相続人に対してのみできるが、遺贈は相続人以外に対してもできる

1点目の違いとしては、客体の範囲の違いがあります。

まず、「相続させる遺言」というのは、相続人を受益者とする場合にのみ作成することができます。

相続人以外の者は相続しないのですから、これは理解がしやすいですね。

これに対して、遺贈は、人以外に対してもすることもできます。

例えば、お世話になった知り合いの人に対して遺贈をすることもできますし、会社にだって遺贈をすることができます。

遺贈は放棄をすることができるが、相続させる遺言は放棄の可否が微妙である

2点目の違いとして、放棄の可否があります。

民法986条は以下のように遺贈を放棄することを認めています。

民法986条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。

このように、例えば、遺贈された財産が受遺者(遺贈を受けた人)にとっていらない財産の場合は、受遺者は放棄をすることによって遺産を取得しないようにすることができます。

これに対して、相続させる遺言の場合は、特定の遺産についてのみ相続することを拒否することができるかについては争いがあります。

東京高裁平成21年12月18日決定は、相続させる遺言がある場合に受益者が遺言の利益を放棄する旨述べるだけではこれを放棄することができないとしています。

説明が難しいですが、この裁判例は、相続させる遺言の効果として、何らの行為を要すること無く所有権が遺言者から受益者に確定的に移転することから、放棄を観念することはできないと考えているようです。

この裁判例を一般化することができるかはわかりませんが、相続させる遺言の場合、遺贈の放棄のように簡単に特定の財産の取得を放棄することはできないのでしょう。

したがって、遺贈の場合は、相続人に対し特定の財産の取得を選択させる余地があるのに対し、相続させる遺言の場合は特定の財産を取得するかの選択の余地がないことから、遺言者は遺言書を作成させるにあたり注意が必要です。

取得させる財産が価値のある不動産ならばよいですが、あまり価値が無く、固定資産税ばかり発生する不動産を相続人に「相続させる」としてしまうと気の毒な結果になる可能性もあります。

 

相続させる遺言は単独で登記が可能で有り、遺贈は相続人と共同で行わないといけない

3点目の違いとしては、登記における容易性の違いがあります。

相続させる遺言は、単独で登記が可能であるのに対して、遺贈の場合は相続人と共同で登記の手続をすることになります。

したがって、相続させる遺言の場合、遺言書と他の必要書類がそろえば、法務局に行って受益者は一人で登記をすることができます。

他方で、遺贈の場合は、相続人と受遺者が協力して登記をしなくてはいけません。

相続人と受遺者の関係が良好であれば特段問題なく登記手続をすることができますが、相続人と受遺者の関係が悪い場合や、見知らぬ他人の場合(受遺者が第三者の場合もあり得ます。)登記の協力が得られずに、登記まで時間がかかってしまうこともあります。

その点で相続させる遺言はメリットがあるでしょう。

借地権付建物の遺贈の場合、地主の承諾が必要になるが、相続させるの場合はいらない

第4の違いとしては、借地権付建物譲渡における地主の承諾の有無があります。

建物が建築されている土地が借地で建物を遺贈した場合は、受遺者は地主の承諾が必要になります。仮に,地主の承諾が得られない場合は、借地権の無断譲渡として地主から解除をされる可能性があります。

これに対して、相続させる遺言の場合は地主からの承諾は不要です。

したがって、借地権付建物の相続の場合は、相続させる遺言の一択になりますね。

終わりに

以上、相続させる遺言と遺贈の違い、それぞれのメリットについて説明しました。

今まで遺言書を作成するに当たって相続させる遺言の方が断然有利と考えている方もいらっしゃると思いますが、相続させる遺言の場合、放棄の点がネックになるので、遺贈を選択するのも有りだと思います。

遺言書の作成にあたり遺贈と相続させる遺言の選択の他にも、遺留分の問題や相続税の対策等、難解な問題もあるので、遺言書の作成は本人だけではなく、弁護士等の専門家に依頼をすると良いでしょう。

遺言書の内容及び作成についてお悩みの方は弁護士による無料相談を実施しておりますので、下記お電話番号にて、またはホームページもしくは本ブログのメール相談フォームからお気軽にお問い合わせください。

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