前回の記事では,自筆証書遺言に関する相続法改正について解説を致しました。
本稿では,平成30年相続法改正(以下「法改正」といいます。)のうち,遺留分に関する改正のポイントについて解説を行います。
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遺留分とはどのような制度をいうのか
遺留分とは,被相続人が有していた相続財産について,その一定割合を一定の法定相続人に保障する制度をいいます。
具体的な遺留分割合としては,兄弟姉妹以外の相続人は,直系尊属(親等)のみが相続人である場合には,被相続人の財産の3分の1を,それ以外の場合にはその2分の1を遺産の中から取得することが法律上保障されています(民法1028条)。
この遺留分を侵害するような贈与や遺贈に対しては,遺留分減殺請求の意思表示を行うことにより,遺留分を侵害する限度でこれらの効力が失われることになります。
そして,贈与等が効力を失った範囲で,遺留分減殺請求権者と遺産を取得した者は,当該遺産を原則として共有することになります。
以上が遺留分の制度になりますが,以下では改正点の中から重要と思われる3つの点について詳述します。
相続法改正によって遺留分制度はどのように変わるのか
改正点① 減殺請求権から金銭請求権へ
既に解説をしたとおり,現行相続法では,遺留分減殺請求権を行使すると,不動産等については共有状態になります。
例えば,被相続人Aが遺言書を書き,その妻であるXに唯一の遺産である不動産を相続させた場合において,被相続人の子YがXに対し遺留分減殺請求を行ったとします。
その場合,子Yが4分の1の共有持分,被相続人の妻Xが4分の3の割合で共有するという結果になります。
改正法において,遺留分減殺請求権は,原則として金銭の支払いを請求することができる権利へと変わりました(新法1046条)。
その結果,上記事例では,被相続人Aの妻Xは,子のYと不動産を共有するのではなく,Yに対して不動産の持分4分の1に相当する金銭を支払う義務を負うことになります。
改正前の相続法では,いわゆる価格弁償(1041条1項)と呼ばれる金銭による支払をすることにより共有状態を解消する制度が存在しました。そのため,遺留分減殺請求を受けた者は,取得した遺産を共有のままにするか価格弁償を行うか選択をすることができました。
しかし,改正法においては,上述の遺留分減殺請求権は,遺留分侵害額請求権として,相続人が受遺者又は受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求める権利に変更になりました。
そのため,遺産を取得した者が共有状態のままにするか,価格弁償を行うかを選択する余地がなくなりました。
なお,遺留分の行使の結果によって,遺留分権利者は金銭給付を受ける権利を取得するのみになりますので,上記権利は,債権法改正後は5年の消滅時効にかかるので注意が必要です。
改正点② 金銭の支払に関する期限の付与の創設
前述の通り,相続法改正により遺留分減殺請求権の行使がなされた場合,遺産を取得した者は遺留分権利者に対し金銭を支払う必要が生じます。
遺言によって取得した遺産の中に金融資産が多くあればよいですが,遺産が不動産等の固定資産等のみの場合は,金銭請求がなされた場合に支払が困難になります。
改正前においては,このような場合,価額弁償を行わずあえて共有状態にすることによって,事実上支払を猶予することが考えられました。
しかしながら,改正後はこのような手段は使えません。
そこで,改正法では,裁判所が受遺者又は受贈者に対し,かかる金銭の支払いの猶予を許与することができるとの規定が新設されました(新法1047条5項)。
この手続は裁判所が期限の付与を行うことができる制度になりますが,自動的に期限の猶予を行うものではありません。
裁判所が期限の付与を行うためには,当事者の請求が必要になるため,仮に裁判になった場合は,期限の付与を求める旨主張することを忘れないよう注意が必要です。
改正点③ 遺留分の計算の加算となる特別受益の範囲の変更
現行法においては,遺留分減殺請求を行った場合,以下の算定式にしたがって具体的に請求できる遺留分額が決まりました。
【相続開始時における遺産額】+【生前贈与額】-【債務額】
そして,上記生前贈与額のうち計算の加算の対象となるのは,原則として相続開始前の一年間になされたもの(民法1030条1項),及び,相続人に対する特別受益に該当するものとされていました(最判平成10年3月24日民集52・2・433)。
これに対し改正法では,生前贈与が特別受益に該当する場合であっても,相続開始前の十年間になされたものに限り計算の基礎に含まれることが明文化されるに至りました(新法1044条)。
この改正により,生前の財産承継を行う場合は注意が必要になります。
例えば,母Aが,2人いる子供B,Cのうち,Bに価値の高い不動産を生前贈与し,Cにはあまり価値が無い不動産を贈与したとします。
改正前の相続法に従えば,Bが取得した不動産の価値が高ければ,Cは将来Bに対して遺留分減殺請求権を行使することによって,BC間の不公平を是正することができました。
ところが,改正法では,贈与がなされた時期によっては,CはBに対し遺留分請求を行うことができなくなるケースがでてきます。
このようなことから,今後は遺留分対策のために早期の生前贈与を利用することも考えられるのではないでしょうか。
終わりに
以上,今回の相続法改正により変更がなされた遺留分の規律について解説を致しました。
今回の相続法改正では,今回ご紹介を行った遺留分の規定以外に改正点が多数ありますので,今後,相続問題を解決するにあたっては,どのような変更がなされたかを十分にフォローする必要があります。
東京都中野区所在の吉口総合法律事務所では,改正相続法のフォローを含め,相続分野を重点的に扱っております。
本稿にとどまらず,相続に関してお困りの点がございましたら,お気軽にご相談ください。