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相続税の節税目的で行った養子縁組の有効性が争点となった事例について,最近新しく最高裁判決が出ました。

平成27年の相続税法の改正によって基礎控除額が減ったことこと等により、相続税が課されるケースが増えており、相続税の節税に関心がある方は多いと思います。その中でも、相続税の節税に養子縁組を利用しようと考えている方にとって今回の判例は参考になるものと言えます。

また,相続税対策をする一般の方にとどまらず,相続税対策のために養子縁組を利用する税理士の先生方にとっても今回の判決は参考となる一判例なのではないでしょうか。

以下では,相続税の節税目的のためになぜ養子縁組を行うのかを前提として説明したうえで,最高裁平成29年1月31日判決の事例を紹介し,最高裁がどのように考えたかについて解説をしていきます。

 

相続税の節税と養子縁組の必要性

まず,なぜ養子縁組を行うと節税目的になるのでしょうか。

相続税法上,以下のように基礎控除というものが決まっており,遺産の課税額が基礎控除の範囲内であれば,相続税は発生しないことになります。

第十五条 相続税の総額を計算する場合においては、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格(第十九条の規定の適用がある場合には、同条の規定により相続税の課税価格とみなされた金額。次条から第十八条まで及び第十九条の二において同じ。)の合計額から、三千万円と六百万円に当該被相続人の相続人の数を乗じて算出した金額との合計額(以下「遺産に係る基礎控除額」という。)を控除する。

 前項の相続人の数は、同項に規定する被相続人の民法第五編第二章 (相続人)の規定による相続人の数当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める養子の数に限るものとし、相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする。)とする。

 当該被相続人に実子がある場合又は当該被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合 一人
 当該被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合 二人
要は,基礎控除額は,3000万円に,相続人の数に600万円を乗じた金額を加えた金額になるところ,養子縁組をすることによって,法定相続人の数が増えますので,基礎控除額が増え,相続税額が減額になるわけです
このように節税目的のために養子縁組が利用されることがあるのですが,縁組意思とは,一般的に「社会通念上真に親子と認められるような関係を設定しようとする意思」であるといわれているため,相続税の節税のために養子縁組を行う場合において,上記縁組意思が認められるか否かが問題となりました。

最高裁平成29年1月31日判決の事例

本件で紹介する最高裁平成29年1月31日判決も上記の節税目的の養子縁組の有効性が問題となりましたが,事例は以下の通りになります。

  • 被相続人には,長男であるBと長女X1及び次女X2の子供がいた。
  • 本件で問題となった養子縁組の養子は,BとBの妻であるCとの間の子供であるYである。
  • Yは平成23年に出生し,被相続人とYは平成24年に養子縁組を行った(養子縁組の際にYは1歳頃であったと思われます。)
  • 被相続人は,養子縁組を行う前に,税理士から養子縁組をすると基礎控除額が増え,相続税の節税の効果がある旨の説明を受けた。
  • X1及びX2は,被相続人とYとの養子縁組は相続税の節税のためのものであるから,縁組意思が無いとして,養子縁組無効確認訴訟を提起した。
  • 原審(東京高裁平成28年2月3日判決)は,本件は相続税の節税目的の養子縁組であって,縁組意思がないことから,養子縁組は無効であると判断した。

最高裁平成29年1月31日判決の判決要旨

以上の事実関係を前提に,同判決は,以下のように判示し、相続税の節税目的の養子縁組であってもそれのみで縁組意思を欠くものでは無いと判示しました。

養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生しうるものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。

そして,前期事実関係の下においては,本件養子縁組について,縁組をする意思が無いことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思が無いとき」にあたるとすることはできない。

このように,同判例は,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても直ちに縁組意思が無いとは言えないとした上で、養子縁組を有効なものであると判示しています。

同判決が養子縁組を有効と判断するにあたたては、相続税の節税目的と縁組意思は併存し得るものであるものであると判示していることや,本件では縁組意思が無いことをうかがわせるほかの事情がないことから縁組を無効とすることはできないと判示していることから,結局のところ,同判決は,相続目的を有しているだけで養子縁組が無効となるわけではなく,他の個別具体的な事情によって縁組意思の有無の判断をすべきである旨考えていると言えそうです。

終わりに

以上,節税目的になされた養子縁組についての縁組意思に関する判例を紹介しました。

本判例は,単に相続税の節税目的を有しているだけで縁組意思が無かったことにはならないと判示していることから,今後縁組意思を争う場合において,相続税の節税目的で養子縁組がなされている,というだけの主張は意味をなさないことになります。

したがって今後は,養子縁組がされた経緯等や動機,養子と養親の関係,縁組当時の養親等の状態等を調査したうえで,具体的に主張立証をすることになります。
このように養子縁組の無効を争う場合は,具体的な事情を踏まえて的確に主張を行う必要があるので,養子縁組の有効性に疑義を有した方は無料相談を利用して弁護士にご相談されることをお勧めします。

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