被相続人が亡くなった場合において、何らかの理由(貯金の限度額の問題等)により預貯金の名義が被相続人ではなく相続人の一人になっている場合があります。

他方で、これとは逆に、預貯金の名義が被相続人になっているけれども、相続人の一人から、実質的には預貯金は自分のものであると主張されることがあります。

最近では、口座開設にあたり本人確認が厳しいですが、昔は預貯金の開設における本人確認がゆるく、このような事態が生じることがあるのです。

それではこのように遺産の中に名義と実質が異なるいわゆる名義預金・借名預金が存在する場合は、遺産分割においてどのように扱えば良いでしょうか。

 

 預貯金が被相続人の遺産であるか否かの決定方法

まず前提として、預貯金の名義が被相続人ではなく相続人の一人のものであった場合、または、実質的には自分の預金が被相続人名義になっている場合であっても、預貯金の帰属は預貯金の名義だけですぐに決まるわけではありません。

それでは、預貯金の帰属先はどのように決まるのでしょうか。これについては、以下のとおり預金の種類によって変わります。

定期預金の場合は預金の出資者が誰であるかによって決まる

まず、名義預金・借名預金が定期預金の場合ですが、定期預金の場合は判例上預金の出資者が誰かによってその帰属が決まるとしています。

例えば、昭和57年3月30日最高裁判例は以下のように言っています(太線は修正したものです)。

無記名定期預金契約において、当該預金の出捐者が、他の者に金銭を交付し無記名定期預金をすることを依頼し、この者が預入行為した場合、預入行為者が右金銭を横領し自己の預金とする意思で無記名定期預金をしたなどの特段の事情の認められない限り、出捐者をもつて無記名定期預金の預金者と解すべきであることは、当裁判所の確定した判例(昭和二九年(オ)第四八五号同三二年一二月一九日第一小法廷判決・民集一一巻一三号二二七八頁、昭和三一年(オ)第三七号同三五年三月八日第三小法廷判決・裁判集民事四〇号一七七頁、昭和四一年(オ)第八一五号同四八年三月二七日第三小法廷判決・民集二七巻二号三七八頁)であるところ、この理は、記名式定期預金においても異なるものではない(最高裁昭和五〇年(オ)第五八七号同五三年五月一日第二小法廷判決・裁判集民事一二四号一頁参照)から、預入行為者が出捐者から交付を受けた金銭を要領し自己の預金とする意図で記名式定期預金をしたなどの特段の事情の認められない限り、出捐者をもつて記名式定期預金の預金者と解するのが相当である。

このように定期預金の場合は、誰が預貯金の原資を用意したかによって決まります。

したがって、定期預金の帰属先を決める場合は、当時の被相続人の引出記録等を精査して、預貯金の出資者が誰かを調査しましょう。

普通預金の場合は預金の開設者が誰であるか等、種々の事情で預金の帰属者が決まる

これに対し、普通預金の場合は定期預金と異なり、入金や出金が日常的に数多くあり、入金者もそれぞれ異なる可能性があることから、誰が預金の出資者であるかということを即座に決めることはできません。

そこで、預貯金の帰属者の判断は、預金の開設者や預金の名義人及び通帳並びに届出印の管理者等の事情から総合的に判断すべきとされています。

例えば、平成15年2月21日最高裁判決は、普通預金口座が損害保険会社と保険代理店のいずれに帰属するかが争われた事案において、預金の名義人及び預金の開設者が保険代理店であることや、損害保険会社が代理店に預金開設の代理権を与えていなかったこと、通帳及び届出印の管理者が保険代理店であった等の事情から、預金の帰属先は保険代理店であると判断しています。

このように、普通預金の場合は、種々の事情から判断されるため、預金が被相続人に帰属すると主張する場合は、預金口座開設の経緯等を調査する必要があります。

 

預貯金の遺産性の争い方

上記のとおり預貯金が遺産であるか否かの判断方法について解説をしました。

それでは、預貯金が遺産であることを争いたい場合はどのような方法(手続)で争えば良いのでしょうか。

相続人間で争いがなければ相続人全員で預貯金が遺産であることを確認して、遺産分割すればよい

まず、相続人間において名義預金・借名預金が被相続人の遺産の預貯金であることに争いがなければ、当事者間で遺産であることに合意すれば特に問題はありません。

その場合、遺産分割協議書の中で遺産であることの確認をした上で、遺産分割をすればこの点について紛争は解決します。

預貯金が被相続人のものであるかを争うためには遺産確認の訴えが必要

これに対し、相続人間で名義預金・借名預金が遺産であることについて争いがある場合、遺産分割調停や遺産分割審判で名義預金・借名預金の遺産性の有無を決めるのではなく、別途遺産確認訴訟を提起しないといけません。

この遺産確認訴訟は、相続人全員を相手に訴訟を提起しないといけません。

遺産確認訴訟提起後、名義預金・借名預金が遺産であることの確認ができた場合、その後に遺産分割調停及び遺産分割審判で預貯金を分割することになります。

名義預金が遺産でないとしたとしても、特別受益の問題が生じる可能性がある

なお、上記の遺産確認訴訟において預貯金が遺産では無いと判断された場合は、預貯金額について被相続人から預金の名義人である相続人に贈与された可能性があります。

その場合は遺産分割調停及び遺産分割審判において預金の名義人である相続人に預貯金相当額について特別受益があると主張していくことになります。

終わりに

以上のとおり、名義預金・借名預金の遺産分割について解説をいたしました。

解説したとおり、名義預金・借名預金が被相続人のものであると主張する場合は、最終的には遺産確認の訴え等行わなければならず、訴訟にあたっては法的な主張をする必要があります。

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