さて、本日は遺言無効確認訴訟に関する記事を作成します。

以前の記事で書いたとおり、遺言書の効力を覆したい場合は、遺言無効確認訴訟を提起し、裁判所に遺言が無効であることの確認を求める必要があります。

遺言無効確認訴訟において、裁判所が遺言書が無効であると判断する場合としては、主として①認知症等で遺言を書いた人に遺言書を書く能力がなかった場合か(遺言能力の欠如)②自筆証書遺言(被相続人が自筆で書いた遺言書)において、本人以外が遺言書を作成(偽造)した場合(自筆性の欠如)です。

①と②の場合、①・②が認められる要素・事情がそれぞれあるのですが、今回は②の遺言書の自筆性が争われた場合に絞り、どのような事情があれば遺言書が無効になりやすいのか解説したいと思います。

筆跡の類似性はあまり大きな要素では無い

まず、この記事を読んだ方の中には、遺言書の自筆性の有無が争われる場合において、遺言書の筆跡と遺言者の筆跡が類似しているということが自筆性を判断する上で極めて大きな要素になると考える方もいるのではないでしょうか。

また、同じように、遺言書の自筆性について筆跡鑑定を行えばすぐに結論が出ると考える方もいるのではないでしょうか。

裁判において、遺言書の筆跡と遺言者の筆跡の類似という事情は、自筆性を判断する上での決定的なものではありません。

確かに、遺言書と遺言者の筆跡が異なるという事情は、遺言が自筆でないことを基礎付ける要素の一つにはなりますが、筆跡は書いた場所や時、体調等により変わると考えられることから、これのみをもって自筆性の有無が決まるわけではありません。

あくまで遺言書と遺言者の筆跡の類似性は、自筆性の有無を判断する上での一事情にすぎないのです。

筆跡以外の事情も遺言書の自筆性の有無に影響を与える

前述したように遺言書の自筆性の判断の上で、遺言書の筆跡と遺言者の筆跡が類似するか否かというのは一つの要素にすぎないのであれば、どのような要素が自筆性の有無に影響を与えるのでしょうか。以下順番に説明していきます。

遺言書の内容が以前の遺言者の行動と整合しているか

まず、遺言書の内容が以前の遺言者の行動と整合していない場合は、遺言書の自筆性が否定される方向の事情になります。

例えば、遺言者が生前に実家の土地建物は長男に相続させると繰り返し言っていたにもかかわらず、遺言書には次男に土地建物を相続させると記載されていた場合、遺言者の生前の行動と遺言書の記載が異なることになります。

この場合、遺言者の生前の行動と遺言書の記載が整合しないことについて合理的な理由が無い限りは、遺言者がそのような内容の遺言書を作成する理由がないことになり、遺言者が遺言書を自分で書いていないという方向に働きます。

 

遺言者と受遺者との関係が良好であるか

遺言者と受遺者(遺言書の記載によって利益を受ける者)との関係が悪かった場合も遺言書の自筆性が否定される事情になります。

例えば、遺言者と受遺者は生前折り合いが悪く、死亡する前も交流をほとんどしていなかったにもかかわらず、受遺者に全てを相続させるという内容の遺言書が存在する場合、通常遺言者がそのような内容の遺言書を書くはずがないと考えられることから、遺言者が書いた遺言書では無いと判断される事情になります。

遺言書の発見状況・時期が不自然であること

更に、遺言書の発見状況や時期が不自然である場合も遺言書は無効の方向に働きます。

例えば、相続人間で遺産分割協議を行っていたが、相続人の一人が遺産を全て相続すると主張していたので遺産分割協議がまとまらなかったところ、突然その相続人に遺産を全て相続させるとの内容の遺言書が発見された場合がこれにあたります。

遺言書が見つかりにくい場所や環境にあったのであるならばまだしも、そうではないのに、突然相続人の一人に有利な内容の遺言書が発見された場合は、従前の遺産分割協議の経緯からしてその相続人に偽造をする動機があったと言えるため、この事情も遺言書の自筆性が否定される事情になりえます。

終わりに

以上、遺言書の自筆性が争点となる場合において、遺言書の自筆性が否定される事情について説明しました。

遺言書の自筆性が否定される事情はある程度類型化することができますが、これらはあくまで一般的な事情であり、具体的な事案によってそれぞれの事情が持つ意味合いも変わってきます。

遺言書の自筆性について争う場合は、事案の把握とその事実の評価が重要になりますので、遺言の効力を争う場合は弁護士に相談することをおすすめいたします。

遺言無効確認事件をはじめ、遺言書の効力についてお悩みの方は弁護士による無料相談を実施しておりますので、下記お電話番号にて、またはホームページもしくは本ブログのメール相談フォームからお気軽にお問い合わせください。

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