「親の預金通帳を調べてみたら、知らない間に預金から現金が引き出されていた。どうやら親以外の誰かが預金を引き出したようである。預金から勝手に引き出された現金の返還請求をしたい。」

このようなご相談はよくあり、いわゆる相続前後における遺産である預貯金の使い込み(使途不明金)の問題です。

このように親の預金が勝手に引き出された場合における対処法については、本ホームページの使い込みの特集ページにて解説をしておりますが、相手方が親の意思に反して勝手に遺産である預金を引き出して使い込んでいることが明らかになれば返還請求は可能になります。

もっとも、理屈上は可能だとしても、裁判において遺産である親の預金を勝手に引き出して使い込んだと認められるのだろうか、と疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

そこで以下では、相続前において親の預金を勝手に引き出したことが裁判で認定され、引き出した者に対する返還請求が認められた最近の裁判例(東京地裁平成28年10月20日判決)を紹介いたします。

認知症の親の預金を勝手に引き出した場合の責任に関する裁判例

裁判例の事案

上記裁判例の事案は以下の通りです。

  • 被相続人は、平成25年9月に死亡した。
  • 被告である被相続人の次男は、平成20年頃から被相続人と同居を開始した。
  • 被相続人は平成21年7月頃から、アルツハイマー型認知症との診断を受けたが、平成24年頃までは症状が安定していた。
  • もっとも、平成24年秋以降から、妄想や徘徊行動が目立つようになってきており、平成25年1月以降、死亡するまで入院をしていた。
  • 平成25年8月頃、長谷川式テストを受けたところ、点数は8点であった。
  • 被告は、平成25年1月以降、預金の引き出しを行っていたが、被相続人の自宅の公共料金等については口座振替がされていた。
  • 被告が管理を始めてから被相続人が死亡するまでの預金の入出金の差額は約1700万円である。

本裁判例の判示事項

このような事例において、本裁判例は以下の通り判示し、被告が被相続人である親の意思に反して勝手に預金を引き出したものである旨の判示をしています。

「被告は,別紙入出金一覧表記載の入出金を行ったが,平成25年1月から同年10月までの出金額と入金額の差額は・・・・円に上り,前年の平成24年と比較すると,・・・・その他身の回りの世話のために要するであろう支出を考慮しても,あまりに高額であるといわざるを得ない。そして,被告は,乙第5号証を提出するなどして金員の使途を説明するものの,同号証に記載されている金額を合算しても,上記払戻金額に見合うものではないし,裏付けとなる証拠もないほか,入院関連費用として挙げる金額は前記認定にかかる入院費用とも齟齬するから,同号証に記載されている金額は合理的なものとはいい難い。そうすると,・・・その金額が高額であること及びその使途は明らかでないことからすると,同額を被告が利得したものと推認することができる。そして,被相続人は,同額の損失を受けたということができ,被告の利得に法律上の原因はないから,被告は,被相続人に対して不当利得に基づく同額の支払義務を負っていたが,被相続人が死亡したことにより,被告は,原告に対し,法定相続分である・・・円の支払義務を負うこととなる。」

このように裁判例は、被相続人の預金を引き出した被告に対し、引き出した預金の返還義務を認めています。

裁判例が被告の責任を認めた理由としては、被相続人が認知症であり、かつ、入院中で現金を必要とする事情が無いにもかかわらず、被告の方で引き出した現金の使途について説明が不十分であったためであると思われます。

本件の事情とは異なり、被告の方で使途を明確にした上で、領収書を証拠として提出した場合や、被相続人が高齢ではあるものの、自宅におり相応の生活費が発生するような場合は、本件とは異なる結論になる可能性も十分にあると言えそうです。

終わりに

以上、親の預金を勝手に引き出した事例、すなわち、相続した遺産預金の使い込みに関する裁判例について紹介を致しました。

本裁判例の事案のように、相手方が預金を引き出したことを立証でき、かつ、被相続人である親等が多額の現金を使用する必要性が無かったことを立証できれば、勝手に親の預金を引き出したものとして引き出した預金の返還請求が認められる可能性が高くなります。

親の預金が勝手に引き出されたので返還請求をしたいが、本当にできるのだろうか、このようなお悩みをお持ちの方は、遺産である相続預金の使い込み問題を含む相続問題に強い東京都中野区の吉口総合法律事務所までお気軽にご相談ください。

電話誘導