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親族の死後に遺言書が発見されたが、遺言書の効力に疑義があるため遺言無効確認訴訟提起をしたところ、判決等により遺言書が無効であると確認されることがあります。

その場合、無効とされた遺言書は無かったものとして、その後遺産分割を行うことになります。

それでは、遺産分割をしようとしたが、遺産分割前に遺産である不動産が売却されてしまった等の理由により損害が生じた場合、無効な遺言書の作成に関与していた者に対し損害賠償請求できるのでしょうか。

以下では、東京高裁平成25年9月25日判決を参考に、無効な遺言書の作成に関与した者に対する損害賠償請求の可否について検討していきます。

 

本判決では、無効な遺言書の作成に関与した者に対する損害賠償請求は否定した

事例及び原判決の判決

本件で問題となった事例は、以下のとおりです。

  • 相続人の母親(以下「A」)は、平成11年に公正証書遺言を作成したが、Aの死後、判決により公正証書遺言の無効が確認され、控訴審でも第1審の判決が維持された。
  • Aの遺言書作成に当たっては、信託銀行が作成に関与し、同銀行が遺言執行者に就任した。
  • Aは遺言書作成当時アルツハイマー病に罹患しており、認知症の症状が顕著に出ていた一方で、遺言書作成時と近接した時点で土地の売却や夫の遺産分割協議をしており、その際は税理士が関与していた。
  • 公証人は、遺言を作成した当時において、Aの遺言能力に問題があったという記憶がなかった。
  • 信託銀行の担当者は、遺言書作成にあたって行ったAからの聞き取りにおいて、Aの夫の遺産分割においては、相続人間でもめたと言うことを聞いていた。
  • Aの死後、遺言によって不動産を取得した長男は、Aの死後不動産を売却した。

上記事例において、原判決は、信託銀行の担当者が前相続でもめたという事項を聞き取ったのであれば、本件遺言書を作成するに当たっては、遺言能力を含めてトラブルがないように十分注意すべきであるところ、担当者が注意深く観察さえしていれば、遺言能力に疑いを持っていたと考えられ、遺言能力を確かめるような行動を行う義務があったとして、担当者の過失を認めました。

その上で、長男が不動産の売却によって得た金額について、長男から他の相続人に対し、売却した不動産の価格相当額について返還が確実になされるような特段の事情が無い限り、他の相続人に損害が認められるとして、不動産売却代金の一部について担当者の損害賠償責任を認めました。

本判決の結論

これに対し、本判決は要旨、以下の理由で遺言作成に関与した担当者の過失を否定して、担当者及び会社に対する損害賠償請求を否定しました。

すなわち、

  • 本件遺言書作成当時において、Aは見当識障害等が相当に進んでいたことが認められるが、言語能力等については比較的よく保たれており、表面的には言語理解能力を示していた。
  • そして、このことは遺言書作成前後において、Aが不動産の売却等を行っていたことからもわかり、売買や遺言書作成にあたって関与した、意思能力について理解のある税理士や司法書士、公証人が疑問を感じなかった。
  • このことからすれば、少なくとも信託銀行の担当者に対して遺言能力について合理的な疑いを生じさせるようなAの言動があったと推認することはできない。

したがって、担当者に遺言能力を確認すべき義務があったと認めることができないため、不法行為責任は認められない。

 

本判決に対するコメント

以上、本判決は無効な遺言書の作成に関与した担当者の過失を否定し、損害賠償請求を棄却しました。

本判決の判旨からわかるとおり、本判決は遺言書の作成関与時点における具体的な遺言者の言動や状態等を考慮した上で請求を棄却したものであって、無効な遺言書の作成に関与した者に対する一般的な損害賠償請求を否定したものではありません。

したがって、遺言書の作成に関与する者の立場からすれば、遺言能力について疑義を生じる事情があるのであれば、確認作業を怠ることは危険ですし、無効な遺言書を作成され不利益を受けた相続人の立場であれば、疑義が生じたにもかかわらず確認作業を怠ったと立証することができれば関与した者に対して損害賠償請求ができる可能性があることになります。

終わりに

本記事では無効な遺言書の作成に関与した者に対する損害賠償請求の可否について解説をしました。

遺言書の無効を含め、無効な遺言書の作成に関与した者に対する損害賠償請求についても法的な知識が必要になりますので、専門家が関与することが必要になってきます。

遺言書の無効を含め、遺言についてご相談がある方は弁護士にご相談下さい。

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