先日のニュースで、預金は遺産分割の対象外であるとする高裁の判断について相続人が最高裁に対し許可抗告を申し立てたところ、最高裁の大法廷に回付されたとの報道がされました。

まだ最高裁による決定が出されたわけではありませんが、大法廷に回付されたということからすれば、預金が遺産分割の対象外とする最高裁判例が変更される可能性は非常に高いですね。

この預金に関するニュースは、一般的にはあまり目を引くようなニュースではないと思いますが、相続事件を多く扱う弁護士からすると、大きなニュースになります。

以下では、遺産分割における預金の従前の取扱いを説明した上で、預金が遺産分割の対象となった場合にはどのような点が変わるかについて説明をしていきます。

 

従前の判例は、預金は原則として遺産分割の対象にならないとしていた

従前の判例は、預金については遺産分割をすることなく当然に分割されるとして、預金については遺産分割をする必要がないとしていました。

したがって、相続人間で預金を遺産分割の対象とする合意がなければ、遺産分割審判でも遺産分割の対象にはなりませんでしたし、預貯金のみが遺産である場合に遺産分割調停を申し立てても分割する遺産がないとのことで遺産分割ができないということもありました。

このように預貯金のみが遺産である場合は、遺産分割の対象となる財産がないことから、生前贈与があったとしても特別受益の問題は生じないと考える考え方が有力でした(なお、これについては預貯金のみが遺産である場合における特別受益を参照)。

ただ、預金ではなく現金であれば遺産分割の対象とされており、預金のみが遺産分割の対象になるのはおかしいのではないかとも思えましたし、最近では投資信託等が遺産分割の対象となる財産であると判断した最高裁判例も出ていたため、このような背景から今回預金の遺産分割対象性について判例変更が検討されたのではないかと思います。

遺産分割前に銀行に対する預金の払戻請求ができなくなる

それでは、預金が遺産分割の対象となると判例変更された場合は、実務にどのような影響があるのでしょうか。

1点目に考えられるのは銀行に対して遺産分割前に預金の払戻請求ができなくなるという点です。

上記述べたとおり、従前の判例は預金は遺産分割を経ることなく当然に分割されるとの考えをとっていたため、預金以外の遺産が未分割のままでも、預金については既に分割が完了されているとして、相続人の一人が単独で銀行に対し、遺産のうち自己の法定相続分に応じた金銭の払戻請求をすることが可能でした。

これに対し、判例変更がされた場合、預金は遺産分割がされるまでは共有状態になるため、相続人の一人が単独で銀行に対し自己の法定相続分に応じた預金の請求をすることはできなくなるでしょう。

したがって、判例変更後は、銀行に対する預金の払い戻し請求は遺産分割が完了してから行うことになる可能性が高そうです。

預金のみが遺産の場合であっても遺産分割調停が可能になる。

2点目ですが、預金のみが遺産であったとしても遺産分割調停・審判をすることができるようになるという点になります。

従前は、遺産が預金のみである場合、遺産分割の対象となる財産が無いことから遺産分割調停、審判を行うことができませんでした。

これに対し、判例変更がされた場合は、預金は遺産分割の対象となる遺産になるため、預金のみが遺産であったとしても遺産分割調停・審判をすることができるようになります。

 

預金のみが遺産の場合であっても特別受益や寄与分の問題を扱うことができる

3点目は、預金のみが遺産の場合であっても特別受益や寄与分の問題を扱うことができるという点です。

2つ目とも関連しますが、預金のみが遺産の場合は、遺産分割をすべき遺産がないと扱われており、遺産分割をすべき財産がなければ、遺産分割を修正する要素である特別受益や寄与分の問題にはならないとするのが従前の取扱でした。

しかし、預金が遺産分割の対象になるとすると、預金のみが遺産であっても遺産分割の対象となることから、遺産分割を修正する要素である特別受益や寄与分の問題になります。

終わりに

以上、預金の遺産分割に関して判例変更がされたときの影響について記事を作成しました。

預金が遺産分割の対象外というのは、一般的な感覚でいえば違和感を感じなくもないので、判例変更によって常識的な結論ということもできるでしょう。

まだ、判例変更はされていませんが、判例変更が近いうちにされた場合は本文で述べたような変化が生じますので、判例の動向には注意が必要です。

相続事件を多数扱う弁護士としては目を離すことができない事件と言えそうですね。

相続問題についてお悩みの方は無料相談を実施しておりますので、下記お電話番号にて、またはホームページもしくは本ブログのメール相談フォームからお気軽にお問い合わせください。

追記:最高裁の口頭弁論が10月19日に指定されたようです。弁論後判決が出たら追ってブログで紹介したいと思います。

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